建築の「カタチ」は、どのような思考や手続きの積み重ねから生まれてくるのでしょうか。
東京・天王洲のWHAT MUSEUM 建築倉庫で開催中の展覧会「波板と珊瑚礁―建築を遠くに投げる八の実践」の関連イベントとして、クロストーク「幾何学(てつづき)がカタチになるとき」が、2026年8月22日(土)に開催されました。
登壇したのは、建築史家の倉方俊輔氏、建築家の大村高広氏、展覧会出展者であるアーキペラゴアーキテクツスタジオの畠山鉄生氏・吉野太基氏、そして展覧会の企画協力にも携わる砂山太一氏。それぞれ異なる立場から建築に向き合う5名が、建築を生み出す「てつづき」と、その結果として立ち現れる「カタチ」をめぐって議論するクロストークです。

完成した建築を見るとき、私たちはどうしても、その最終的な形や空間に目を向けがちです。しかし実際の建築は、最初から完成形が決まっているわけではありません。リサーチ、スケッチ、模型、素材の選択、構造や施工方法、身体感覚、周辺環境との関係など、さまざまな判断や試行錯誤を経ながら徐々に形づくられていきます。
今回のタイトルにある「幾何学」には「てつづき」という読みが添えられています。建築を単なる形態として見るのではなく、形をつくるためのルールや操作、考え方、他者とのやり取りといったプロセスそのものを捉え直そうとする視点が、このイベントの入口になっています。
形を見るだけでなく、「なぜこの形になったのか」「その前に何があったのか」を考える。建築を見る解像度を一段上げるようなテーマです。
今回のクロストークは、WHAT MUSEUMで開催中の展覧会「波板と珊瑚礁―建築を遠くに投げる八の実践」の関連イベントです。
同展では、主に2010年以降に活動を開始した建築家8組が参加し、この展覧会のためにつくられた模型や映像、空間構成などを通して、それぞれの建築的思考を提示しています。WHAT MUSEUM 建築倉庫がこれまで扱ってきた「建築模型」を、完成した建物の縮尺模型としてだけではなく、建築家の考えや概念を運ぶメディウムとして捉え直していることも特徴です。
会場には全周約12mに及ぶ模型をはじめ、鑑賞者が内部へ入り込めるものや、直接手に取れるもの、映像や空間そのものを作品化した展示などが並びます。単に模型を「見る」のではなく、身体を通じて建築家の思考へ近づいていくような展覧会となっています。
出展者は、ALTEMY、Office Yuasa、ガラージュ、GROUP、DOMINO ARCHITECTS、畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ、平野利樹、RUI Architectsの8組です。
展覧会「波板と珊瑚礁―建築を遠くに投げる八の実践」の詳細はこちら
今回の登壇者でもある畠山鉄生氏・吉野太基氏らアーキペラゴアーキテクツスタジオは、展覧会で「What is ○△□ ?」を発表しています。
テーマとなるのは、「まる・さんかく・しかく」という、誰もが知っているはずの基本的な形です。しかし、「私たちは本当にそれらを知っているのか」という素朴な問いから、普段当たり前だと思っている形を捉え直していきます。作品は畠山氏が企画・構想を担当し、畠山氏、吉野氏、アーキペラゴアーキテクツスタジオが構成・計画を手掛けています。
アーキペラゴアーキテクツスタジオは、素材の気配や身体の尺度、知覚の揺らぎなどを手掛かりに、建築を固定された正解としてではなく、更新され続ける問いとして構想する設計チームです。今回のトークタイトルである「幾何学(てつづき)がカタチになるとき」とも深くつながる展示といえます。
登壇者の一人、倉方俊輔氏は、日本近現代建築史を専門とする建築史家で、大阪公立大学大学院工学研究科教授。研究活動に加えて、「東京建築祭」実行委員長、「イケフェス大阪」「京都モダン建築祭」「北九州建築祭」の実行委員を務めるなど、建築の価値を一般の人へ開いていく活動にも取り組んでいます。
建築を「つくる側」だけではなく、歴史のなかで建築を読み解き、その価値を社会へ伝える立場が加わることで、今回のテーマを時間軸の長い視点から考えることができます。
建築家の大村高広氏はOffice of Ohmura(OoO)を主宰し、2023年から茨城大学助教を務めています。建築の設計・制作だけでなく、研究、執筆、撮影・記録などを通じて、日々の生活を支える共同性と建築のあり方を考えています。第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示「中立点」にも出展しています。
砂山太一氏はSUNAKI Inc.代表、京都市立芸術大学美術学部総合芸術学科准教授。情報と物質の関係をテーマに、建築、美術、デザイン、デジタル技術を横断しながら企画・批評・制作・空間設計に取り組んでいます。今回の「波板と珊瑚礁」展では企画協力にも携わっています。
建築史、建築設計、研究、批評、デジタル技術と、それぞれ異なる領域から建築を見る登壇者が集まることで、一つの設計論に閉じないクロストークとなっています。
展覧会と今回のクロストークを一緒に見るうえで重要なのが、「模型」をどう捉えるかという点です。
WHAT MUSEUM 建築倉庫では、建築家や設計事務所から預かった800点以上の建築模型を保管し、その一部を公開しています。今回の展覧会では、模型を単なる完成建築の縮小版ではなく、建築家が何かを考え、試し、次の判断へ進むための装置として提示しています。
完成した建築だけを見ていると、設計の途中で捨てられた可能性や、形になる前の思考はなかなか見えてきません。模型や制作物を通じて「完成する前の建築」を見ることは、設計を学ぶ学生や若手建築家にとっても参考になるはずです。
クロストーク「幾何学(てつづき)がカタチになるとき」は2026年8月22日(土)17:00〜18:30に開催されました。定員は50席で、イベントチケットには展覧会「波板と珊瑚礁」と建築倉庫の鑑賞料も含まれていました。
関連展「波板と珊瑚礁―建築を遠くに投げる八の実践」は、2026年9月13日(日)までWHAT MUSEUMで開催中です。開館時間は11:00〜18:00、最終入館17:00。月曜休館で、会場は天王洲アイルにあるWHAT MUSEUMです。
今回のトークイベントに参加できなかった人も、展覧会を通じて8組の建築家がどのような「てつづき」から建築を考えているのかを体験できます。
・建築家の設計プロセスに興味がある方
・完成建築だけでなく、模型やスタディを見るのが好きな方
・建築史や建築批評に興味がある方
・建築模型が設計で果たす役割を考えてみたい方
・アーキペラゴアーキテクツスタジオの活動に興味がある方
・倉方俊輔氏、大村高広氏、砂山太一氏の活動に関心がある方
・建築を学んでいる学生
・若手建築家の現在の実践を知りたい方
・WHAT MUSEUMや建築倉庫を訪れてみたい方
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