踏み出した分だけ、未来の「道」が引かれる

なぜ一流建築家は「大きな仕事」を追わないのか? 打率で考える、建築という生き方

なぜ一流建築家は「大きな仕事」を追わないのか? 打率で考える、建築という生き方

ARCHIES Vol.5
#ARCHIES #ARCHIES Vol.5 #MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO #ビジネス #ビジネス人向け #原田真宏 #原田麻魚 #学生向け #建築 #建築家 #木造建築

原田真宏氏

1973年静岡県生まれ。1997年に芝浦工業大学大学院を修了後、約3年間、隈研吾建築都市設計事務所にて勤務。その後、文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受けてホセ・アントニオ・エリアス&トーレス アーキテクツ(バルセロナ)に所属。磯崎新アトリエ勤務を経て、2004年に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」を原田麻魚と共に設立。現在は芝浦工業大学にて教授を務めている。

原田麻魚氏

1976年神奈川県生まれ。1999年に芝浦工業大学を卒業後、象設計集団、建築都市ワークショップに所属。その後、2004年に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」を原田真宏と共に設立。現在は東京大学や名古屋工業大学等で非常勤講師を務める。

静岡県焼津市に、予算150万円で建てられた小さな陶芸小屋があります。

ホームセンターで手に入る合板を、そのまま構造にも仕上げにも使ったこの小屋こそ、国内外で数多くのプロジェクトを手がける建築家夫婦の原点でした。

01 「大きな仕事」を狙うのが正解? その常識、疑ってみませんか

事務所を構えたら、受注量を増やし、より大きなプロジェクトを狙っていく——多くの設計者が思い描く成長の道筋です。

しかし、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOの原田真宏氏・麻魚氏の夫妻は、設立から21年、その道をあえて選んできませんでした。「金額が大きいプロジェクトを狙おう、受注量を増やそう、といったビジネス的な戦略は、意図的にやっていません」と真宏氏は言います。「あえて言うなら、戦略的でないことが一番の戦略なんです」

代わりに二人が磨いてきたのは、建築界の”中心”とされる価値観への「違和感」でした。学生時代から抱いていたその感覚を、ただの不満で終わらせない。言語化し、概念化し、作品にして伝えていく。そうして初めて、自分たちの立ち位置がはっきりしてくるのだといいます。

02 150万円の小屋に、将来のすべてが詰まっていた

その原点が、冒頭の焼津の陶芸小屋です。

デビュー当時、二人は先輩建築家たちから「激安の案件を続ける作家になってしまうのではないか」と心配されたそうです。それでも真宏氏は、あの一作をこう振り返ります。「構造も、空間構成も、シークエンス(空間を移動しながら体験する見えの連続)も、光の取り入れ方も——僕たちの将来の種が、あそこに全部詰まっていたんです」

事実、そこで芽生えた手法は、一つの幾何学として今の作品へと受け継がれています。「デビュー作には、その作家の将来が詰まっている」とよく言われますが、二人の歩みはまさにその通りでした。ただ「大きく」ではなく、自分たちが本当だと信じる方へ。夫妻は静かに舵を切り続けてきたのです。

03 打席を絞り、打率を上げる。そして「木」がくれる自由

彼らの思想は、さらに徹底しています。

面白いことに、150万円の小屋を建てるのも、超高層ビルを建てるのも、建築的な発想を結晶させる集中力は同じだと真宏氏は言います。「だからこそ、リソースの配分を限定して、一回一回の集中力を最大化する。空振りや三振は、なるべく避ける」。数を追うのではなく”打率”を上げる。この構えが、規模の拡大とは異なる強さを生んでいます。

そして、もう一つの軸が「木」です。手で運び、のこぎりで切り、釘を打てる木は、扱う人に主体的な関わりを許してくれる素材だと二人は考えます。「お金は、幸せになるためのチケットでしかないんです」と真宏氏。木がもたらすのは、自分の環境を自分の手でつくるという、その営みそのものの幸福なのだと語ります。

04 最後に

栃木県益子町の道の駅では、地場のスギを先に買い付け、製材から役場の予算執行までを一つに束ねる仕組みをつくりました。木を軸にすると「あの人が、あの場所で採れたあれを持ってきてくれる」——関わる人々の顔が見えてくるのだといいます。

大きさでもなく、お金でもない。自分が本当に信じる”中心”は、どこにあるのか。原田夫妻の歩みは、設計を学ぶあなたにも、静かに問いを投げかけています。ただ大きな作品を目指すのではなく、あなたなりの「打率」を考えてみませんか?



本記事のより詳しいインタビュー内容は、ARCHIES Vol.5でお読みいただけます。

特集

Special feature

すべて見る

イベントを掲載しませんか?

SNSとwebを含めて、月間10万人以上の建築・建設・不動産のプロフェッショナルに届く情報サイト。ぜひご相談してください。