踏み出した分だけ、未来の「道」が引かれる

生存最優先の宇宙に「デザイン」は不要か? 世界的建築家が直面する、宇宙ビジネスのジレンマ

生存最優先の宇宙に「デザイン」は不要か? 世界的建築家が直面する、宇宙ビジネスのジレンマ

ARCHIES Vol.6
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鶴巻崇

建築家・グラフィックアーティスト。1970年生まれ。東洋大学工学部建築学科卒業後、建設会社での設計実務を経て、ロンドン大学バートレット建築校で修士課程を修了。以降、ロンドンを拠点に複数の設計・デザイン事務所で国際的なプロジェクトに携わる。これまでにアップル本社(カリフォルニア)、ザイード国立博物館(アブダビ)、コール・ドロップス(ロンドン)、麻布台ヒルズ(東京)、大阪・関西万博タカラベルモンドパビリオン(大阪)など様々な領域にまたがる建築に参画してきた。ヘザウィッグ・スタジオでシニアデザイナーとして勤務の傍ら、2021年より日本建築学会・宇宙居住小委員会の委員を務めるほか、宇宙建築に関する提言や普及活動を精力的に行う。

01 Apple本社から宇宙へ。世界的デザイナーが重視する「ストーリー」

Apple本社やロンドンのコール・ドロップス・ヤード、そして日本の麻布台ヒルズなど、世界最前線のプロジェクトに携わってきた建築家・鶴巻崇氏

現在ヘザウィック・スタジオで活躍する彼が、デザインにおいて最も重視しているのは、その場所にふさわしい「ストーリー」と「ムード」を一貫して作り上げることです。

そんな彼が今、最前線で取り組んでいるのが「宇宙建築」のプロジェクト。しかし、地球上の常識が一切通用しない過酷な宇宙空間において、建築家は大きなジレンマに直面しています。

02 「1.5m」か「20m」か。生存最優先の宇宙で建築家が直面する壁

現在の宇宙建築は「特権的な宇宙飛行士が生きて帰る」ことが最優先であり、エンジニアが主導しています。莫大な輸送コストの壁もあり、「人類としてどんな豊かな空間を作るか」というデザインの入り込む余地はほぼありません

専門家間のアプローチの違いも深刻です。例えば月面の砂(レゴリス)の厚さについて、建物の内圧を自重で抑え込もうとする天文学者は「20m必要」と主張しました。しかし、膜構造自体が内圧に耐える前提の鶴巻氏の案は「1.5m」でした。

専門家の立場の違いが、全く異なる建築の姿を生み出してしまうのが、宇宙開発のリアルなのです。

03 NASAは「絵」を描いている。宇宙ビジネスを制する建築家の構想力

しかし、状況は変わりつつあります。

SpaceXなどの民間企業の参入により、将来的に地球低軌道に「宇宙ホテル」が建設されるなど、商業化が進めば競争が生まれ、必ず「建築家による豊かな空間」が求められる時が来ます。

そこで重要になるのが、未来の「絵」を描く構想力です。

NASAやESA(欧州宇宙機関)は、著名な設計事務所(SOMなど)と協働し、何百ページにも及ぶ詳細なビジョンを描き世界をリードしています。一方で、日本はまだ世界に向けて「絵」を発信する段階に至っておらず、大きな後れを取っていると鶴巻氏は警鐘を鳴らします。

04 最後に

宇宙という極限環境で「人類がどう生きるか」のストーリーを構想し、ビジョンを描くこと。

それは、エンジニアだけでは成し得ない、建築家にしかできない最上流のビジネスです。
宇宙開発への投資や、そこで培われた技術・知見は、決して宇宙空間だけで終わるものではなく、巡り巡って必ず地球の建築を豊かにしてくれます。未来の「宇宙建築家」として、新たなルールと空間をデザインするのは、あなたかもしれません。



本記事のより詳しいインタビュー内容は、ARCHIES Vol.6でお読みいただけます。

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