
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙探査イノベーションハブ技術領域主幹。京都大学大学院理学研究科博士課程修了後、東京大学にて宇宙物理学の教員を経て、2009年よりJAXAへ移籍。赤外線天文衛星や金星探査機あかつき等、数多くの宇宙科学ミッションにおいて中心的役割を果たし、宇宙機関のPMとSEを取りまとめる国際委員会の議長も務める。2019年よりJAXA宇宙探査イノベーションハブにて将来の探査に向けた共同研究活動の取りまとめを行いつつ、ムーンショット型研究開発のプロジェクトのPMとして、AIロボットによる月・火星での自律的生命圏構築を目指すプロジェクトを牽引。取締役、顧問、特任教授などで多くの企業や大学に携わりながら国内宇宙ビジネスの発展に向けた活動を推進している。
類が再び月を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」。
かつてのアポロ計画と決定的に違うのは、単に「行って帰ってくる」だけでなく、月面に持続的な拠点を築き、将来の火星探査も見据えて「住む」ことを前提としている点です。
月に長期滞在するためには、エネルギー、食料、医療、そして何より人々の居場所となる「建築・インフラ」など、地球上のありとあらゆる技術が必要になります。しかし、宇宙機関の力だけでそれら全てを網羅することは不可能です。
そこで今、JAXAはこれまで宇宙開発とは無縁だった民間企業を巻き込むオープンイノベーションを推進し、新たな「月面インフラ構築ビジネス」をかつてないスピードで加速させています。
月に建物を建てるための技術として、今JAXAが熱い視線を送っているのが、日本の「建設・住宅業界」が持つ知見です。
例えば、住宅メーカーのミサワホーム。一見すると宇宙とは結びつきませんが、彼らが長年培ってきた「南極・昭和基地」の建築ノウハウが最大の武器になっています。
地球上で最もアクセスが困難で過酷な環境である南極において、「建設の経験がない観測隊員だけでも簡単に組み立てられ」「極寒の中で圧倒的な気密性を保つ」という実用的な技術は、そのまま宇宙での建物づくりに応用できるのです。
さらに、清水建設などのゼネコンも参画し、小さく運んで現地で膨らませる「インフレータブル(空気膜)構造」の居住施設など、従来の宇宙船とは異なる全く新しいアプローチの建材が次々と研究されています。
私たちが普段目にする日本の高いものづくり技術が、実はそのまま宇宙の開拓に直結しているのです
宇宙における建築ビジネスのさらに奥深い点は、「建築基準法のような明確なルールが、まだ世界中のどこにも存在していない」ということです。
月の環境は地球とは全く異なります。重力は6分の1であり、大気がないため、微小な隕石が燃え尽きずに地表へ降り注ぎます。さらに、生命にとって致命的な高エネルギーの放射線(太陽フレア)にも常に晒されます。
地球の建築では「地震で多少変形しても倒壊しなければ安全」という考え方が成り立ちますが、月面ではわずかな変形や隙間が、致命的な空気漏れに直結するため許されません。 そのため、一部が破損しても全体が機能不全に陥らない「生物の細胞(セル)を模倣した構造」の採用や、月の砂である「レゴリス」を3Dプリンター等で建材化して分厚い防護壁にするなど、安全の概念から素材選びまでをゼロから構想する必要があります。
地球上の常識を一度捨て、現地の制約の中でどう最適な空間を生み出すか。これは建築パーソンにとって、究極の課題解決ビジネスと言えるでしょう。

SpaceX社をはじめとする民間宇宙企業の台頭により、宇宙開発のスピードはかつてないほど劇的に向上しており、早ければ「2030年代には月面に人が滞在している時代が来る」とも予測されています。
これはもはや、遠い未来のSFの話ではありません。 あなたが今学んでいる設計の知識や、現場で培っている施工のノウハウが、数年後に「宇宙のインフラ」として採用されるかもしれないのです。既存の建設業界の枠を軽々と飛び越え、新しいフロンティアを切り拓く。そんな壮大なスケールを持つキャリアの可能性に、ぜひ目を向けてみてください。
本記事のより詳しいインタビュー内容は、ARCHIES Vol.6でお読みいただけます。

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