
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 準教授(工学博士)、スタンフォード大学客員教授、佐藤淳構造設計事務所技術顧問。東京大学大学院修了後、木村俊彦構造設計事務所にて勤務。2000年に佐藤淳構造設計事務所を設立。2021年にJAXA宇宙探査ハブ共同研究にて月面拠点の研究を開始し、2022年にスターダストプログラムの一つに採択される。近年の作品に、2025大阪万博での「ポーランド館」、「学ぶ、学び舎」、「Vijiversburg Visiter Center」、「サニーヒルズ南青山」などがある。2009年芦北町地域資源活用総合交流促進施設で日本構造デザイン賞受賞、2021年ヴェネチアビエンナーレで金獅子賞を受賞したUAEパビリオンに協力。
建築家が描くデザインを、力学の知識で実現に導く「構造家」。
東京大学大学院准教授であり、数々の名建築を支えてきた構造家の佐藤淳氏は今、地球を飛び出し「月面拠点」のプロジェクトに挑んでいます。
例えば、アルミ板に無数のくぼみ(ディンプル)をつけることで、板を薄くしても圧倒的な強度を持たせることができます。美しい木組みや、透き通るような鉄骨構造など、彼が地上で長年追求してきた「いかに構造を軽く、強くするか」という技術の延長線上に、人類が月に住むための革新的なアイデアが隠されていたのです。
佐藤氏のチームがJAXAと進めているのは、アルミ製の多面体を月面で「膨らませる」居住モジュールです。
真空の月面では、内部を0.6気圧に保つだけで、内側から外側へ1平方メートルあたり6トンもの凄まじい圧力がかかります。 そこで佐藤氏が目をつけたのが「折り紙」の技術でした。
金属疲労を防ぐ「曲線折り」を採用し、コンパクトに運んで月面で展開します。特筆すべきは、故障リスクの高いモーターなどの複雑な機械制御(アクチュエーター)に頼らない点です。
着陸後にフックを外せば、スプリングの力で半自動的にパタパタと開く。地上で培った「堅牢でアナログな仕掛け」こそが、過酷な宇宙では最強の武器になるのです。
さらに宇宙建築において最大の壁となるのが、「建築基準法のような統一ルールが存在しない」ということです。
絶対的な正解がない未知の領域で、安全率をどう設定するのか。何もない場所に新たなルールを定義し、社会実装していくプロセスは、まさにビジネスの最上流の仕事と言えます。
ここで真価を発揮するのが、構造家が地球上で培ってきた「経験と直感」です。「ここは力が集中するから余裕を持たせよう」「部品が脱落しないよう一体成形にしよう」といった実務に基づく感覚が、そのまま宇宙空間の新たな安全基準を創り出していくのです。
昼は120℃、夜はマイナス150℃という極寒や放射線の脅威に対しても、まずは「3週間の短期滞在」に割り切って重量を削るなど、夢物語ではない超現実的な課題解決が進められています。

最先端の宇宙開発と聞くと、私たち建設・建築業界の人間には縁遠い世界に思えるかもしれません。
しかし実際には、あなたが日々現場や図面と向き合って培っている「技術」「構造への理解」、そして「安全への直感」が、人類の新たなフロンティアを開拓する最重要ピースになっています。
地球で磨かれた技術が、20年後の月面居住を現実のものにする。そんなスケールの大きなキャリアの可能性を感じてみませんか?
本記事のより詳しいインタビュー内容は、ARCHIES Vol.6でお読みいただけます。

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