日本建築史のはじまりともいえる法隆寺の建立から、1,000年以上。長い時を経て日本に到来した明治という時代は、建築の歴史においても、かつてないほど大きな転換点となりました。江戸から明治へ。長きにわたり閉ざされていた西洋文化への入口が開かれると、日本には洋風建築が一気に流れ込みます。
煉瓦や石を用いた重厚な建物、高くそびえる塔やドーム、華やかな装飾。これまで見たことのない建築が次々と都市に姿を現し、東京の風景は大きく変わっていきました。そこに広がっていたのは、日本建築の歴史においても稀に見る大変革と、当時の人々を驚かせた胸躍る風景です。
本展では、人々が建築に新たな時代への夢を託した「明治の洋館」の世界を、多種多様な資料と立体的な空間演出によって描き出します。明治時代に入ると、洋風建築は新政府が進める欧化政策の要として、また新時代を象徴する存在として、急速に求められるようになりました。
しかし、当時の日本には西洋建築に関する知識や経験がほとんどなく、「建築家」という職業もまだ社会に根づいていませんでした。大工棟梁たちは限られた情報を頼りに試行錯誤を重ね、やがて外国人技術者や建築家から西洋の技術を積極的に学び始めます。
その挑戦は少しずつ実を結び、明治時代後期には、日本人建築家の設計による本格的な西洋建築が誕生するまでに発展しました。その過程では、西洋の様式をそのまま取り入れるだけでなく、和と洋を大胆に組み合わせた、日本独自の個性豊かな建物も数多く生み出されています。
さらに首都・東京では、近代国家にふさわしい都市を形成するため、いくつもの国家的プロジェクトが進められました。洋風建築は都市の風景に新たな風を吹き込み、やがて人々が集まる新名所として親しまれていきます。
本展が取り上げるのは、明治期の東京で急速に展開・普及した洋風建築の受容から、本格的な西洋建築が成立するまでの壮大な道のりです。
大工棟梁による「擬洋風建築(ぎょうふうけんちく)」、外国人技術者による洋館、外国人建築家たちが手がけた本格的な西洋建築、工部大学校卒業生をはじめとする日本人建築家たちの挑戦、そして皇族や上流階級のためにつくられた大邸宅まで。日本建築史上でも稀に見る変革の時代に生まれた、多彩な成果を紹介します。
さらに、国宝・重要文化財や日本初公開資料、立体的な空間演出によって再現されるのは、単なる建築の歴史ではありません。約150年前、初めて洋館を目にした人々は、どのような驚きと憧れを抱いたのでしょうか。当時の人々が胸を躍らせた文明開化の息吹を、ぜひ会場で体感してください。
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本展で来場者と共有するのは、洋館という建築単体の姿だけではありません。
その建物がどのような街に立ち、周囲にはどのような風景が広がり、そこで人々がどのような時間を過ごしていたのか。洋館を取り巻く「都市の空気感」まで含めて、明治の東京を立体的に描き出します。
会場の各章には、立体パノラマによる都市風景の再現展示を用意。建築のなかで過ごす人々の時間、建物を取り巻く海や運河などの水辺、街を行き交う人々が生み出す都市の活気を、空間全体で感じられる構成となっています。
さらに、時間の移ろいや音、動きといった演出も随所に盛り込まれます。
資料を眺めるだけでは想像しにくい、明治東京のスケールやにぎわい。まるで約150年前の街へ足を踏み入れたような、ワクワクする鑑賞体験が待っています。
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本展を構成するのは、建築図面だけではありません。
国宝や重要文化財を含むドローイングをはじめ、錦絵、模型、古写真、絵葉書、家具、建築部材など、さまざまな種類の資料が会場に集結しています。
図面から建物の構想を読み解き、古写真や錦絵から当時の街並みを想像し、家具や建築部材から洋館内部の雰囲気に触れる。多彩な資料を通して、明治の洋風建築をさまざまな角度から楽しめる展示です。
なかでも注目したいのが、ドイツのベルリン工科大学建築博物館が所蔵する、ヘルマン・エンデとヴィルヘルム・ベックマンによる幻のプロジェクト「官庁集中計画」の関連資料です。
近代国家にふさわしい首都をつくるため、明治政府が構想した壮大な都市計画。その姿を伝える「国会議事堂案 外観透視図」をはじめとする5点が、日本で初めて公開されています。
実現しなかった計画のなかに描かれた、もうひとつの東京。そのスケールと迫力は、本展ならではの大きな見どころとなっています。
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本展は、建築史の専門家によるこれまでの研究成果を活かした、江戸東京博物館ならではの企画です。
日本近代建築史を彩る明治の洋館について、その誕生の背景や設計に携わった人物、都市との関係をわかりやすく紹介します。
建築ファンにとっては、貴重な図面や資料、失われた建築の姿、最新の研究成果に触れられる充実した内容。一方で、専門的な知識がなくても楽しめるよう、時代背景や建築の特徴が丁寧に解説されます。
なぜ、日本に洋館が求められたのか。外国人建築家は東京の街をどのように変えたのか。そして日本人は、西洋建築をどのように学び、自分たちの建築へと発展させたのか。
建築を通して明治という時代を読み解きながら、大人から子どもまで幅広い世代が楽しめる展覧会です。

明治元年、1868年。東京開市とともに、築地に外国人居留地が開かれました。
このとき、外国人のための宿泊施設兼交易場として建てられたのが、東京初の洋館とされる「築地ホテル館」です。
建物には、日本の伝統的な左官技術であるナマコ壁が使われました。主設計を担当したのは、アメリカ人建築技術者リチャード・ブリジェンス。工事を担ったのは、大工棟梁の二代目清水喜助です。
清水はその後、明治5年、1872年に大作「第一国立銀行」の設計・施工を手がけました。
このように、江戸時代以来の技術を受け継いだ大工たちが、明治初期に見よう見まねでつくり上げた和洋折衷の建物は「擬洋風建築(ぎょうふうけんちく)」と呼ばれます。
西洋建築の知識が十分ではなかったからこそ生まれた、大胆で自由な造形。日本の伝統技術と西洋への憧れが混ざり合った、明治初期ならではの個性豊かな建築を紹介します。
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大工棟梁たちが見よう見まねで建てた擬洋風建築(ぎょうふうけんちく)は、どれも個性にあふれたものでした。
しかし、日本政府が求めていたのは、独創的な和洋折衷ではなく、近代国家を象徴する「本物の西洋」でした。
欧米の建築文化を本格的に取り入れるため、さまざまな国から技師や建築家が来日します。
その代表が、イギリス人建築家ジョサイア・コンドル、ドイツ人建築家ヘルマン・エンデ、ヴィルヘルム・ベックマンです。
彼らがつくり出した建物は、擬洋風建築(ぎょうふうけんちく)とはひと味違う、構造や様式に裏づけられた本格的な西洋建築でした。
壮麗な建物が次々と東京に姿を現し、都市の風景は劇的に刷新されていきます。人々の目の前で、街そのものが新しい時代の姿へ変わっていく。その高揚感を、建築と都市の両面からたどります。
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明治12年、1879年。ジョサイア・コンドルが育成した日本人学生が、工部大学校造家学科、現在の東京大学工学部建築学科を卒業し、日本人最初の建築家4名が誕生しました。
外国人建築家から西洋の技術を学んだ彼らは、やがて日本人自身の手で、本格的な近代建築を生み出していきます。
彼らが設計した作品の一部は、現在も東京の街に残されています。
片山東熊による表慶館、曾禰中條建築事務所による慶應義塾図書館、辰野金吾による中央停車場、現在の東京駅などは、国の重要文化財に指定されています。
本章では、現在も残る建物と、すでに失われた作品の双方から、日本人建築家たちが未知の建築に果敢に挑んだ軌跡を紹介します。
外国から学んだ技術が、日本人の手によって少しずつ花開いていく。日本近代建築が本格的に動き始める瞬間です。
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明治の建築家たちに課せられた使命の中心は、官庁や駅、博物館など、国家を飾る大建築を設計することでした。
一方で、邸宅もまた、建築家の創造性が発揮される重要な舞台となります。ジョサイア・コンドルのように、邸宅建築を得意とする建築家も少数ながら存在しました。
彼らが創造した洋館の多くは、皇族や華族、実業家など、ごく限られた上流階級の人々のためにつくられた大邸宅でした。
華麗な外観、贅を尽くした室内装飾、美しい家具や調度品。その姿は、多くの人々にとって、思わず目を見張る「羨望の住処」だったことでしょう。
本章では、明治期に建てられた洋風邸宅の群像を、古写真や絵画資料、現存する家具、空間の再現などから描き出します。
東京の街を華やかに彩った、夢のような邸宅の世界が広がります。
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本展では、洋風建築という未知の世界に挑み、日本の建築史を切り開いた多くの技術者や建築家を紹介します。
二代目 清水喜助
清水建設の礎を築いた大工棟梁。築地ホテル館の工事や第一国立銀行の設計・施工を手がけました。
立石清重
長野県に現存する国宝・旧開智学校を設計・施工したことで知られる大工棟梁です。
トーマス・ウォートルス
東京の都市風景を大きく変えた、銀座煉瓦街計画に携わった建築技術者です。
リチャード・ブリジェンス
築地ホテル館や新橋停車場を設計したアメリカ人建築技術者です。
ジョサイア・コンドル
日本に本格的な西洋建築を伝え、多くの日本人建築家を育成したイギリス人建築家です。
ヘルマン・エンデ、ヴィルヘルム・ベックマン
明治政府による壮大な都市計画「官庁集中計画」に携わったドイツ人建築家です。
辰野金吾、片山東熊、曾禰達蔵、佐立七次郎
工部大学校造家学科を卒業し、日本人建築家の第一世代として活躍した建築家たちです。
妻木頼黄
官庁建築をはじめ、明治期の日本を代表する数々の建築に携わりました。
そのほかにも、明治の洋風建築を生み出した多くの人物が登場します。
一人ひとりの仕事をたどることで、明治の洋館が突然誕生したのではなく、数多くの試行錯誤と挑戦の積み重ねによって形づくられたことが見えてきます。

本展の開催にあわせて、企画者が執筆する展覧会関連書籍も発売中です。
個性豊かな明治の洋館を取り巻くさまざまなトピックを紹介し、日本近代建築史を体系的に学べる、教科書のような一冊となります。展覧会を鑑賞したあとに、登場した建築や人物についてさらに深く知りたい人にも注目の書籍です。
タイトル
『洋館 明治の夢と挑戦』
編著
東京都江戸東京博物館
藤森照信・米山勇
発行
株式会社エクスナレッジ
価格
2,970円(税込)
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